高知大学キャンパス内のクマムシ」スペシャル

クマムシを見つけよう

高知大学理学部理学科生物科学コース 松井透
2008年12月16日 Version 1.0
2012年2月19日 Version 1.4.4

クマムシ類は私達の身の回りにもたくさん生息しているとても身近な動物です.しかし,いざ見つけようとしても「どこにいるの?」「どうやってみ見つけるの?」などなど,疑問点も多くなかなか難しいと思います.ここでは私達の研究室で行っているクマムシ類の観察方法と「ちょっとしたコツ」を紹介します.

まだ書きかけの部分も多いです.ぜひご意見ご感想をお聞かせください.

1.準備するもの

クマムシ類の体長は,最大の種でも約1mmしかありません.大変小さな生物なので,観察には顕微鏡が必須となります.

あれば便利なもの


大型ホールオベクトグラス
時計皿より安定していて作業しやすいです.

2.コケ植物の採集

陸産のクマムシ類の多くはコケ植物から見つかります.コケ植物は身の回りから高山まで幅広く生育し,世界から約20,000種が,日本だけでも約1,700種が知られています.

クマムシ類は様々な種類のコケ植物から見つけることができますが,中にはクマムシ類がほとんど見つからないコケ植物もあります.

まずは身近に生育しているコケ植物で,名前がつけやすく色々なクマムシ類が見つかる可能性の高い「ギンゴケ Bryum argenteum Hedw.」を探してみましょう.

 

ギンゴケは岩や土,コンクリート壁などに普通に見られる種類です.植物体は銀緑色をしているため,他種との識別も比較的容易です.葉は乾いても縮れません.都市部でもよく見かけますので注意深く探してみてください.

ギンゴケかな?と思われるコケ植物を見つけたら,まずは手に取りじっくりと観察してください.できればルーペを使って拡大して観察してみましょう.


ギンゴケ.特徴的な銀緑色をしています.乾燥するとより白くなります.

コンクリート壁には緑褐色をした「ハマキゴケ Hyophila propagulifera Broth.」や「カタハマキゴケ Hyophila involuta (Hook.) A.Jaeger」もよく見られますが,これらにはクマムシ類はあまりいないので注意してください.ハマキゴケの仲間の葉は,乾くと強く縮れます.


カタハマキゴケ(やや湿った状態).クマムシ類はほとんど見られません.

 

クマムシ類を見つけるだけならコケ植物は2cm四方くらいの量があれば十分です.しかし,コケ植物の同定をきちんと行うためには,手のひらの大きさくらいの量を採集し,採集日,採集場所(可能なら標高も),着生基物,採集者を記録しておき,乾燥標本として保管しておくと良いでしょう.

コケ採集には下図のような採集袋を用いると便利です.まず縦30cmほど,横25cmほどのクラフト紙(左図)を準備します(新聞紙などでは濡れるとすぐに破れますので,濡れても破れにくい素材の紙を用いると良いでしょう).この紙を左図1〜4の順に折ると右図のような袋状の形になります.これを開いて採集したコケ植物を入れます.

採集袋

コケ植物用採集袋

 

コケ植物の標本作製は簡単です.試料を十分に自然乾燥させ,ゴミなどを取り除きます.そして,乾燥したコケ植物を,産地や採集日などを印刷した標本ラベルを貼った紙袋に入れるだけです.

コケ植物の観察に用いる機材もクマムシ類と基本的同じで,実体顕微鏡や光学顕微鏡などです.ぜひコケ植物の観察・同定にもチャレンジしてみてください.おもしろいですよ.

3.クマムシをはい出させる

採集してきたコケ植物を2cm四方くらい取り出し,シャーレか透明プラスチック容器に入れ,ピンセットで細分しておきます.もし土や砂が多い場合はコケ植物をネットで包んでおくと良いでしょう.

次にコケ植物が浸るくらいに水を入れます.完全密封できる容器なら,カクテルシェーカーのように振ってみるのも良いでしょう.こうして1時間〜1日くらい放置しておくと,クマムシ類がはい出してきます.なんと言っても「緩歩」なので,結構時間がかかる場合もあります.焦らずのんびり待ちましょう.

4.クマムシ採集

観察の邪魔にならないよう,透明プラスチック容器からコケ植物や小石などをピンセットを使って取り除き,水の濁りがなくなるまで数分間放置します.

では実体顕微鏡下でクマムシ類を見つけましょう.

クマムシ類は容器の底にいるはずです.クマムシ類は体長0.1〜0.3mmほど,大きくても1mmほどなので,低倍率の観察では見つけることが難しいです.このため,いきなり30倍くらいで観察した方が見つけやすいと思います.

実体顕微鏡の照明は,一般的な試料の上から照らす落射照明法よりも容器の側面から照らして暗視野風にした方が見つけやすい場合も多いです.また,必要に応じて透過照明も用います.いろいろ工夫してみてください.

プラスチック容器を「静かに」前後左右に動かしてクマムシ類を探します.勢いよく動かすと,土の粒子が舞い水が濁ってしまいます.


実体顕微鏡での作業.静かに静かに作業します.

 

土の粒が微かに動いていませんか?多くの場合はセンチュウ類(線形動物門,体をミミズやヘビのようにくねらせて動きます)やヒルガタワムシ類(輪形動物門,体を伸び縮みさせ,シャクトリムシのように動きます)ですが…クマムシ類かもしれません.クマムシ類なら4対の脚があるはずです.脚は実体顕微鏡でも十分観察できるので,注意深く確認してください.

実際のクマムシ類の動きはムービーを見てください.一般に真クマムシ類は透明〜白っぽく見え,動きが速く見つけやすいです.しかし,異クマムシ類には黒褐色の種類もいて,比較的動きが遅いため,慣れないと見つけにくいかと思います.見逃さないようゆっくりじっくりと探しましょう.


実体顕微鏡をのぞくと,土の粒がいっぱい見えます…もちろんクマムシも…

 

ギンゴケからは真クマムシ類のオニクマムシMilnesium tardigradumやヨーロッパチョウメイムシMacrobiotus occidentalisなどが,異クマムシ類ではニホントゲクマムシEchiniscus japonicusなどが見つかるかもしれません.

クマムシ類を見つけたらピペットで吸い込んで採集します.ピペットは写真のように持ち,水につける前にスポイトをごくごく軽く押さえておきます.クマムシ類さえ吸い込めば良いので,スポイトをぎゅっと握る必要はありません.


改造パスツールピペット
先端の長さと細さ,ピペットの持ち方に注目してください.
スポイトはごくごく軽く押さえます.

 

ピペット先端をクマムシ類に近づけ,スポイトを押さえていた力を静かに抜いていきます.この時,逆にスポイトを押さえてしまうと水流でクマムシ類が吹き飛ばされてしまいます.また,勢いよく吸い込むとコケ植物の破片や土塊など大量のゴミも吸い込んでしまいます.観察倍率が高いのでピペット操作には慣れが必要です.焦らずじっくり取り組んでください.

ピペットで吸い込む時,どうしてもクマムシ類と一緒にゴミも吸い込んでしまいます.そこで一度ホールスライドグラスや時計皿などにクマムシ類を集めておきます.これを再度実体顕微鏡下に置き,ピペットを用いて吸い込むと観察時のゴミを減らせます.あるいは少し技術が必要ですが,先端が極細のピンセットでクマムシ類だけをつまむのも良いです.

5.顕微鏡観察

クマムシ類をピペットで水ごとスライドグラスの上に垂らします.そこにカバーグラスを載せ,顕微鏡で観察します.水の量があまりにも少ないと,クマムシ類がカバーグラスによってつぶれてしまうことがあるので注意してください.

動く姿を観察したい場合は,ホールスライドグラスを用いてみましょう.ホールスライドグラスがない場合は,以下の図のようにスライドグラスにカバーグラスを接着させたものを準備し,クマムシ類が動く隙間を作っておくと良いです.接着したカバーグラスとカバーグラスの間にクマムシ類を載せ,カバーグラスを被せて観察します.

 

まずは4倍の対物レンズを使って,クマムシ類を探してみましょう.見つかりましたか?次いで10倍,40倍と倍率を上げて,クマムシ類の体の各部をじっくりと観察してみてください.

真クマムシ類では口器や爪などが観察のポイントです.体が透明に近い種類が多いので「貯蔵細胞(体腔球)」も観察できます.また,オニクマムシは大型なので筋肉系の観察も容易です.

異クマムシ類では側毛,背甲板の形や模様,爪などが観察のポイントです.もし100倍の対物レンズがあれば,背甲板の表面を観察してみてください.細かな模様がびっしりと発達している様子が観察できます.


レッツ・トライ!

 

参考文献

クマムシ類関連

コケ植物関連

 

 

Special thanks

撮影協力・クマムシイラスト:藤井暁子さん
機材データ提供:株式会社テクノサービス 浅野圭介さん

共焦点レーザー走査顕微鏡で撮影したクマムシ.画像処理により立体像にしています.

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